「日米デジタル協定」こそが本丸だ

本日の新聞各紙で、「日米貿易協定あす発効」の見出しが躍っているが、同時に発効する「日米デジタル協定」についてはどこにも出てこない。

農産物と自動車の関税に注目が集まった「日米貿易協定」は、国会でもかなりの時間を割いて審議が行われた(それでもTPP協定に比べるとかなり少ない)が、同時に発効する「日米デジタル協定」については、ほとんど審議が行われなかった(衆参の国会審議でこの問題を正面から取り上げたのは私だけだった)。

一橋大の石川城太教授は、「将来、日米貿易協定よりもデジタル貿易協定の方がはるかに重要になる」と指摘しているが、その通りだ。

昨年9月の日米首脳会談で交渉入りを合意したのは「日米貿易協定」であったが、本年4月になって突如、米国から「日米デジタル協定」の提案が加わり、わずか3か月余りの短期間の協議で合意された。

新聞各紙は、政府の「デジタル分野で先進的な日米両国が協定を結び、世界に向けてルール作りを主導していく」との主張を真に受け、「中国をけん制するもので評価できる」といった前向きな論調が多いが、米国の見かたは大きく異なる。

現に、トランプ米大統領は「日本のデジタル市場を4兆ドル(440兆円)規模で解放させた」とコメントしており、NYタイムズは「米巨大IT企業が訴訟に巻き込まれるのを防ぐ条項をトランプ政権が書き入れた」と報じている。

とりわけ問題なのは、GAFA(グーグル、アップル、フェースブック、アマゾン)と呼ばれる巨大IT企業に対する法規制をようやく日本も検討を始め、来年の通常国会で法案を提出しようとしているそのタイミングで、この協定が急いで締結されたことだ。今後、法規制を行おうとしても、「日米デジタル協定」を盾に、米巨大IT企業が条約違反だと主張することも十分あり得る。

この点に関して私は、11月13日の衆議院外務委員会において、GAFA規制を担当する宮下内閣府副大臣に問い質したが、「例外規定があるから必要な規律が妨げられることはないと考えている」との答弁であった。しかし、「例外規定だけで本当に大丈夫なのか?」「『考えている』と付記し断言しないあたり怪しいのでは?」と心配が尽きない。

更に、交渉を担当した茂木外務大臣に問い質すと、「おっしゃるとおり、デジタル貿易の世界は大きな拡大が予想され、想定されない変化が起こる可能性もあるが、今見える範囲でルールを整備した」との答弁が返ってきた。その程度の認識で、440兆円もの巨大市場を米国に売り渡したのだとすれば「売国行為」と言われても仕方がない。

そもそも「デジタル分野では世界の中で日米が先行している」などという政府やマスコミの見解は間違いだ。日本のデジタル化は明らかに世界に比べて遅れている。

米巨大IT企業に食い物にされてからでは遅い。一刻も早く「日米デジタル貿易協定」の問題点を共有し、「日米貿易協定」同様、あるいはそれ以上に、我が国の国益に叶う条約となるように再協議を行うべきである。