経産省や米財務長官の「積極財政」発言に対する財務省の見解は(「MMT・反緊縮」財務省と11度目の質疑)

6月9日の厚生労働委員会において「MMT・反緊縮」をテーマに財務省と11度目の質疑。今回は財務省とは正反対の見解(積極財政)を表明した経済産業省から話を聞いた上で、これに対する財務省の見解を聞いた。

以下は議事録の要約版です。詳しく(正確に)知りたい方は動画をご覧ください。

 

国の財政と国民の命どちらが大事なのか

(高井)生活困窮者を救う総合支援資金の再延長にかかる予算は1400億円程度。なぜ財務省は認めないのか。国民の命よりも国の財政の方が大事なのか。

(伊藤副大臣)もちろん国民の生命財産を守る、これは最大に尊重させる価値があるので、私はその一環として財政にも目配りをしなければならないと考えている。引き続き生活に困窮される方々の支援をしっかり行い国民の命と暮らしを守ってまいりたい。

経産省が公表した積極財政への提案の具体的意味は

(高井)私はこの間ずっと国債をもっと発行すべきと主張してきた。驚いたのだが、6月4日に経済産業省が産業構造審議会に「経済産業政策の新機軸」と題する14枚の資料を出したが、その中には、

①財政出動を大規模・長期・計画的に行う

②低インフレ、低金利においては財政政策の役割も重要

③コロナ禍による総需要の急減は低成長を恒久化する恐れがある

④コロナ対策やマイルドなインフレを実現するための財政支出の拡大は財政収支を悪化させるが、超低金利下ではそのコストは小さい

⑤税制についても、格差の是正などミッション志向で改革に取り組む

等の記載がある。これは私がずっと主張してきた内容で、かつてMMTに反対してきたアメリカの経済学者たちが最近見解を変えているが、これを経済産業省も主張していると受け取れるが、具体的な意味を教えてほしい。

(河西経済産業省審議官)

本資料は経済産業大臣の諮問機関である産業構造審議会に、昨今の不確実性の高まりや長期停滞など世界の変化を踏まえ、今後の経済産業政策の大きな方向性について議論してもらうため論点として提示したもの。ご指摘の点それぞれ説明すると、

①昨今の欧米の産業政策を参考にしつつ、単なる量的な景気刺激策ではなく、成長を促す分野や気候変動対策など真に効果的な財政支出を前提として、大規模・長期・計画的な産業政策が必要としている

②コロナ禍においては総需要が不足しており、金利が極めて低い状況においては、経済成長を促進する上で、効果的な財政政策の役割も重要

③コロナ禍による雇用情勢の悪化や設備投資の鈍化などが定着し回復しなければ、潜在成長率の低下を招き、コロナ終息後も長く低成長になるリスクがある

④長期停滞や大規模な金融緩和に伴う低金利が、現在の世代に国債発行のコストを感じさせない状況をつくり出している

⑤歳入面(税制)の議論においては、格差拡大の防止といった政策目的の観点も考慮に入れることが必要

ただこの点は、産構審の当日も事務局から説明したのだが、必ずしも規律なき財政拡大が求められているという趣旨ではない。政府の方針として「経済再生と財政健全化の両立」は閣議決定されており、経済産業省も財政健全化は重要な政策課題と認識している。

 

 

経産省や米財務長官の積極財政提言に対する財務省の見解

(高井)まさに世界の経済学の潮流に追いついた提案をよくぞ言ってくれた。実は2016年に米国FRBイエレン議長が講演で同じことを言っていて「総需要を減少させるショックが総供給に恒久的な影響を与える負の履歴効果」。イエレン氏は現在の米財務長官だが6月6日には「米国の4兆ドル(440兆円)の財政支出はインフレと金利上昇を引き起こしても問題ない。10年間低過ぎるインフレ、金利と闘ってきた。これを通常の環境に戻したいだけ」と発言しているがこれはまさにわが国の当てはまること。この間財務省は私との質疑で正反対のことを言ってきたが、経済産業省の見解やイエレン財務長官の見解をどのように考えているのか。

(宇波主計局次長)経済産業省の考えと政府方針との関係については先ほど答弁があったとおり。経済対策においてもグリーンやデジタル等の成長分野に予算を重点化し経済再生を進めることが極めて重要。一方で日本の財政赤字の拡大は社会保障と給付の負担のアンバランスという構造的な課題によって生じている。社会保障に対する国民不安や自然災害などに機動的に対応する財政余力を確保するためにも財政の持続可能性確保は必要。こうしたことを総合勘案して、経済再生と財政健全化の両立を図ることが政府の方針。イエレン氏の発言は他国の財務長官の発言の解釈は予断を持ってコメントすることは差し控えたいが、その上で申し上げれば、この発言は財政の持続可能性が重要であることや、金利やインフレの動向を考慮すること自体を否定する発言ではなかったと受け止めている。発言前日の6月5日にイエレン長官も合意しているG7声明では「コロナからの回復が確かなものとなれば、将来の危機に対応し、より長期的な構造的課題に対処できるよう、財政の長期的な持続可能性を確保する必要がある」と記載されている。

(高井)硬直的な財政健全化至上主義の財務省の体質を変えない限りこの問題は解決しないとつくづく思う。

【動画】https://takaitakashi.com/archives/41547