ウィシュマさん死亡の最終報告は事実と異なる

8月10日名古屋出入国管理局でスリランカ女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件の最終報告書が公表された。

この事件は今年4月の法務委員会における「出入国管理法改正案」の審議において死因を調査した中間報告があまりに杜撰であることが明らかとなり、最終報告が出た段階で再び法務委員会を開くという与野党間の約束になっていた。

そのため昨日法務委員会理事懇談会が開催されたのだが、一転して与党は約束を反故にして法務委員会の開催(閉会中審査)を拒否。「出入国管理法改正案が廃案になったから」という理由なのだが、それは全く理由にはならない。

義家法務委員長は理事会の場で「最終報告書が出たら国会閉会中でも法務委員会を開く」と明言していたし、与党の稲田筆頭理事も同趣旨の発言を公式に記録が残る法務委員会の場で行っている。

理事懇でもう一つ大きな議論となったのはウィシュマさん収容中のビデオを国会議員に見せるか否か。法務省は「人道的な配慮から遺族にのみ見せる」とのことで与党もこの方針を支持。

私からは「ビデオを見た遺族から『最終報告書の記述と異なる部分が相当ある』と聞いている。ビデオを見ないと最終報告書が正しいかどうか判断できない」と申し上げ、強くビデオの開示を求めた。

理事懇に先立ち、野党の理事会メンバーが集まり(通称「野理懇」)、ウィシュマさんの妹お二人と従弟と遺族の代理人の指宿弁護士、高橋弁護士から話を伺った。

ビデオは2週間分しか保存されておらず、これを2時間に編集したものを、遺族4名(妹2人と従弟と妹の夫)しか見ることができず、代理人(弁護士)は見ることを許されなかったそうだ。

指宿弁護士は「代理人(弁護士)の重要性を一番わかっている法務省がそれを拒否するなんてどうかしている」と抗議したそうだが、全く同感だ。

ビデオを見た遺族から聞いた話と最終報告書を照らし合わせてみると異なる点が多々ある。例えば、

  • 最終報告書によれば2月26日「(ベッドから転げ落ちたウィシュマさんを)看守勤務者2名で体を持ち上げてベッド上に移動させようとしたが持ち上げることができずそのまま床に寝せた」とあるが、ビデオを見ると持ち上げようとする素振りも見せずそのまま放置したそうだ。
  • 最終報告書によれば2月26日「(ウィシュマさんは)数回にわたりインターフォンを介するなどして看守勤務者に寒いなどと申し立てた」とあるが、ビデオを見ると「泣きながら23回もインターフォンで助けてくれと叫んでいた」そうだ。23回を数回としか記載しないのは明らかに意図的だ。
  • 最終報告書によれば2月23日「看守勤務者は(ウィシュマさんが)「セ―ラインやって」と言ったのに対し意味を理解できずわからないと答えた」とあるが、ビデオを見ると「ウィシュマさんはわかりやすく点滴を示すジェスチャーをしており誰が見ても点滴だとわかる」そうだ。
  • 最終報告書によれば3月3日「(ウィシュマさんが)「頭の中が電気工事をしているみたいに騒がしい」「耳の奥で波の音がしている」「もう死んでもよい」等述べた」とあるが、ビデオを見ると「看護師が医師の診察に備えてそう言わせようと何度も練習(暗記)させているように見えた」そうだ。

もしかすると1回しかビデオを見ていない遺族側の誤解かもしれないが、だからこそ第三者が客観的に確認すべきだ。

この最終報告書は外部有識者の協力は得ているものの、ヒアリング調査を行い報告書を書いたのは入管庁自身であり「お手盛り調査」と言われても仕方がない。

入管庁のお手盛り調査である証拠は、調査チームは遺族や支援団体からもヒアリングしているが、その内容は最終報告書には全く反映されていない。

だからこそ我々国会議員にはビデオを開示し、最終報告書が真実であるか否かを国会審議で明らかにする必要がある。

問題の本質は「入管庁の人権意識の低さ」にある。

その原因を指宿弁護士に聞くと「入管職員は収容者を送還することが第一でそのためには死なない程度にいじめてもいいという意識があるのではないか。戦前の入管庁は内務省であり特高警察の意識が残っているのではないか」と言われたが、私もその通りだと思う。

入管庁の体質、入管職員の意識そのものを変えなければならないのに、最終報告書には「全職員の意識改革のため『出入国在留管理の使命と心得(仮称)』の策定に向けて、速やかに議論に着手すること」とあるのみ。

この最終報告書では全く不十分であり、断固法務委員会を開き審議を求める。