菅総理の人事は民間企業では当たり前?

菅総理の著書に出てくる「NHK担当課長の更迭」についての「真相」をブログに書いたところ、大きな反響があった。

その中で複数の方から「菅総理の人事は民間企業では当たり前で、支持する」との意見を頂いた。

確かに、菅総理がよく言う「選挙で選ばれた政治家が、公約を実行するために、抵抗する官僚を更迭するのはやむを得ない」との見解は理解できる。

民間企業でも、業績を伸ばしている社長は人事をうまく活用しており、人事がうまい人が出世して社長になるケースも多い。

「人事」はそれだけ強い権力であり、うまく使えば効果抜群だ。しかし、強い権力だからこそ、「慎重に」「抑制的に」「上手に」使わなければ失敗する。「恣意的に」「濫用」すれば、イエスマンばかりの組織となり、いずれ組織は崩壊する。

絶対的な権力を持ったオーナー社長が部下の言うことを一切聞かずワンマン経営に陥り、会社が潰れていった例は少なくない。

一方で、ワンマン経営であっても、社長が優秀で、間違った判断をしなければ、成功している会社があるのも事実だ。

しかし、政府と民間企業が決定的に違うのは、民間企業が私的なもの(オーナーや株主あるいは社員のもの)であるのに対して、政府は公的なものだ。政府で働く人は公務員であり、公務員は憲法で「国民全体の奉仕者」と定められている。

公務員は、いくら総理や大臣の命令といえども、国民のためにならないと信じるときは、意見を言うことが求められる立場だ。

その責任を放棄して、自分の人事権を握っている者のみを見て、国民のためにならない行為(国有地の安価な払い下げ、公文書の改ざん・隠蔽・破棄などがその典型)を行ってしまったとすれば、許されることではない。

菅総理が人事権を濫用することで、官僚のモラルが下がり、「悪い忖度」が働き、国民のためにならない行為が行われてしまったのではないか、ということを私は問題視している。

私は「忖度」そのものが悪いとは思わない。上司の意向を忖度もできない部下は優秀とは言えない。

しかし、今問題となっている「忖度」は、人事権を濫用する上司から、自分の地位を守るために行う「悪い忖度」であるから、問題なのだ。

選挙で選ばれた政治家(=大臣)の決定に従わず、抵抗の限りを尽くす官僚を更迭するのは当然だが、これまで菅総理が更迭した官僚の中で、そのような人物を私は一人も知らない。更迭されたのは皆、国民のためと思い、勇気をもって意見を具申した人ばかりだ。

菅総理が、総務大臣・官房長官時代にやってきたことは、意図的な「見せしめ人事」だ。政策の遂行のために、どうしてもその官僚を更迭しなければならなかった理由はなく、その官僚を更迭することにより、自分の指示が絶対の「イエスマン」を増やすことを狙っただけだ。

更に深刻なのは、政権からの中立性・独立性が求められる内閣法制局や検察庁、宮内庁等の人事でそれをやったことだ。そして、ついに、憲法で自由が保障される、政権から最も独立性が重んじられる「学問」の世界にまで持ち込んだことだ。

日本学術会議の問題は、単にこの組織の問題にとどまらず、菅総理が最も力を入れてきた「人事権の濫用」と「政権への忖度」の問題そのものであり、これを見過ごすわけにはいかない。

菅義偉総理の著書「政治家の覚悟」