出入国管理法改正、修正協議の真相
出入国管理法改正案の審議が大詰めを迎えている。
衆議院法務委員会ではこれまで12時間半の審議が行われてきた。与党は「過去の改正と同程度の審議時間であり採決すべき」と主張しているが、今回の改正は70年ぶりの大改正であり、更に本年3月6日に名古屋入管局で収容中に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマさんの真相解明に審議の大半の時間を費やしており、法案の中身の議論がほとんど行われていないことから、野党は猛反発している。
事実と異なる中間報告
ウィシュマさんの死については法務省より中間報告が出されているが、その内容と異なる事実が次々と明らかになっている。病院から「仮放免でよくなる」「入院、点滴」との指摘があったにも関わらず、中間報告ではこの指摘と真逆の記載がされている。
5月14日(金)の法務委員会理事懇談会では、我々が再三要求した結果、ウィシュマさんを診察した病院のカルテのコピーが配られた。(ただし、コピーは会議後回収で写真撮影は不可。「必要ならば書き写せ」と言われ、我々は1時間かけて必死に書き写した。)
カルテには「(薬を)内服できないのであれば点滴、入院」と記されているが、中間報告には「医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と記されている。
この矛盾を入管庁に問うと「3月17日に病院の医師から聞き取り調査を行ったところ、『入院、点滴を勧めることはしていない。診療の結果、入院、点滴の必要はなかった』と言われたので、中間報告にはその旨を記載した」との答え。
では「病院のカルテとの整合性は?」と問うと「聞き取り調査の後、3月24日にカルテが提出された」との答え。
私から「3月17日の聞き取り調査と異なる内容のカルテが提出されたら、その違いについて医師に確認すべきではないか?」と問うも、「確認していない」との答え。確認しないまま、自分たちに都合の良い聞き取り調査だけを中間報告に記載したことになる。
与党からも疑問の声が
私が「今からでも確認すべきだ」と言うと、難色を示す入管庁に対して、法務委員長や与党理事からも「確認しろ」と叱責する声が出た。
一事が万事このようなやり取りで、法務省・入管庁には真相究明しようという姿勢は全く感じられない。この件をうまく誤魔化して法案を成立させようという魂胆が見え見えだ。
最終報告についても「(国会閉会後の)7月までは出せない」と言い張り、それならばと代替案として「ウィシュマさん収容中の監視カメラの映像」の提供を求めた。与党理事から「見せるべきだ」との声があがっても、入管庁は頑なに応じようとしない。よほど都合の悪い映像が残っているとしか思えない。
修正協議は決裂
5月13日(木)夕刻の国対委員長会談で与党から修正案が提示された。
しかしこれは修正案に値しない内容で、野党からは10項目の修正案を提示した。
翌14日(金)、与党の稲田筆頭理事と野党の階筆頭理事との間で4回にわたり修正協議が行われ、一時協議はまとまりかけたが、最後は国対委員長会談で「監視カメラの提供」で折り合わず、法務委員長解任決議案を提出するに至った。
明日の衆議院本会議で解任決議案は数の力で否決される。その後の法案審議の行方は見えない。
「ウィシュマさんの死と法案は別問題」との指摘もあるが、今回の法改正で入管庁の権限は大幅に拡大する。入管庁の信頼が揺らいでいる今、そのような法案を断固採決するわけにはいかない。
【野党から提示した10項目(修正案)】
①「難民認定手続き中の送還停止」の例外事由である「3回目以降の申請」を削除
②退去命令違反委対する罰則の削除
③監理措置の基準明確化
④監理措置中の就労許可
⑤監理人の監督・届出義務の削除
⑥身柄収容前の司法審査
⑦身柄収容期間の上限設定
⑧仮放免の基準明確化
⑨在留特別許可の基準明確化
⑩補完的保護対象者の認定基準の明確化