財務省の任務は「財政健全化」ではない-財務副大臣と激論

5月21日の厚生労働委員会において「MMT・反緊縮」をテーマに財務省と7度目の質疑。財務省からはついに伊藤副大臣が登場しました。

私から副大臣を指名したわけではないのですが、財務省から「重要な答弁なので副大臣から答弁させてください」と申し出がありました。通常は「政府参考人(官僚)から答弁させてください」というのがほとんどで、「政治家から答弁させてください」という申し出は国会議員になって数百回質問してますが初めてです。

以下は議事録の要約版です。詳しく(正確に)知りたい方は以下の動画をご覧ください。

https://takaitakashi.com/archives/41411

https://takaitakashi.com/archives/41414

https://takaitakashi.com/archives/41417

 

財務省の最大の任務は?

(高井)副大臣は財務省の一番の任務は何だと思いますか。

(伊藤)適切な経済財政運営に資する取組みだと思います。

(高井)主計局次長は何だと思いますか。

(宇波)副大臣の答弁に尽きますが、例えば財務省の政策評価実施計画において「広く国の信用を守り、健全で活力ある経済及び安心で豊かな社会を実現する」と財務省の使命が記載されているので、これに則って一生懸命働きたい。

(高井)財務省が本当にそう思っているのか疑問だ。財務省設置法には任務の最初に「財政健全化」と書いてある。私が考える財務省の最大の任務は「予算編成」だ。これに勝る仕事はない。財務省が予算編成を行っているからこそ他省庁は財務省に頭を下げる。財務省が「官庁の中の官庁」と言われる所以だ。予算編成で何をするかといえば「日本経済、国民生活を良くしていく」こと。しかし財務省はそれよりも財政健全化、プライマリーバランスの黒字化をめざし、必要な予算を切り刻んでいる。

日本のGDPが20年間全く増えていない理由

(高井)日本のGDPは20年間全く増えていない。世界を見れば平均で2.5倍増えている。中国は十数倍、米国は2.5倍、英国は2倍、独国は1.3倍。全く増えていないのは日本だけ。その原因は何か。

(伊藤)予算を最終的に決めるのは国会であることは肝に銘じている。日本経済の低迷が長引いた原因はバブル崩壊以降デフレが顕在化する中で企業が投資を控え、将来不安から消費が低迷したことに加えて、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少、生産性の伸びの鈍化といった要因が影響している。政府としては、金融政策・財政政策・成長戦略を一体で進め、2019年には名目・実質とも過去最高水準となり経済の好循環は進んできた。引き続き経済社会や産業構造を見直し、民需主導の経済成長を実現することが必要と考えている。

(高井)予算は国会が最後に決めるのは当たり前だが、実際に国会で修正された例はない。米国では予算委員会で半分くらい予算が変わるが日本はそういう仕組みになっていない。副大臣の答弁で当たっているなと思うのは「消費が落ち込んでいる」という点。これが最大の原因。その消費をどう引き上げるかといえば、まずは財政出動。そして消費税減税。しかし逆に消費税を増税し、その度にGDPは落ち込んでいる。消費する中間層・低所得層に給付をしっかり行えば、貯蓄に回らず消費につながる。そしてIT等の成長分野の予算を増やす。IT分野は20年間予算が全く増えていない。この点をどう考えるか。

(伊藤)まずはデジタル化やグリーン社会の実現を始め、社会経済や産業構造を見直し、民需主導の経済成長を実現していくことが重要。その上で、財政出動はこれまでも経済状況を見極めた上で機動的に行ってきた。一方、債務の持続可能性や財政運営に対する信認が失われれば、悪い金利上昇や過度なインフレを含め国民生活に重大な影響が及ぶことが懸念されるため、民需主導の経済成長の実現とともに歳出歳入改革の取組みを継続し、経済再生と財政健全化の両立を図っていくことが重要と考えている。消費税については2019年の引上げは全世代型社会保障制度への転換のためにどうしても必要なので現時点において減税は検討していない。中間層、低所得層への支援は雇用、収入、住まいの確保など様々な課題に対応したきめ細かな施策を引き続き講じたい。その上で生産性を高める中で最低賃金の引上げを通じた賃金上昇を促すことが重要。IT等成長分野への予算の重点配分は予算編成において必要と考えている。こうした中、令和3年度予算はグリーン化、デジタル化など経済成長に資する中長期的な課題に着実に対応する予算となっている。

MMTに否定的な経済学者が意見を変えている現実

(高井)反論したいことがいっぱいあるが時間がないので最後に2問まとめて聞く。資料①は2019年4月17日の財政制度審議会に財務省が提出した資料で「MMTに対する批判、コメント」を集めたもの。ところがここでコメントした経済学者等が2年も経たないうちにコメントを翻している。例えばグルーグマン氏は「債務が雪だるま式に増える可能性がある」と言っていたのが「政府の負債は雪だるま式に増えるのではなく、逆に溶けていく。政府は借りた金を返す必要なんてない」と変えている。他の方も同じように言っている。なぜこうなったのか。私の分析ではコロナ禍で本来上がるはずの金利が上がっていない。つまり金利はコントロールされているとわかったからだ。日本でも緊縮財政の代表格の経済学者伊藤元重教授も「過激な財政政策を多くの専門家が支持していることは注目すべきだ。長期構造的な不況を解消するためには次元の違う大胆な財政支出が必要となる。そう考える専門家が増えてきたのだ。コロナ危機はそうした財政政策転換の大きなきっかけを提供することになった」と述べている。この点について財務省はどのような考えるか。もう一つの質問は、資料②の「政府統合論」。これは衆議院の財務金融調査室が作った資料だが、統合政府に賛成の人が24名、反対の人が17名。この結果を財務省はどのように受け止めているか。

(伊藤)資料①については、右側(最近)のコメントは、新型コロナへの対応として積極的に財政出動すべきという議論であり、MMTを論評したものではないと理解した。例えばイエレン元FRB議長・現財務長官は公聴会の中で「持続可能で責任ある政策を立案するためにも金利上昇リスクを考慮する必要がある」と述べている。政府としては、財政運営に対する信認が失われることになれば、過度なインフレや金利上昇が起こる可能性は否定できないので、国民生活に悪影響を与えかねないと考え財政運営を行う必要があると考えている。資料②については、政府と日銀のバランスシートを連結して考えるということは、日銀は政府から独立して金融政策を決めているにも関わらず、政府は日銀が永久に国債を購入・保有し続けることを念頭に置いているのではないか、結果的に財政ファイナンスを狙っているのではないかとの誤解を招きかねず適当でないと考えている。仮に政府と日銀のバランスシートを統合し、日銀の保有する国債(資産)でその分政府の負債(国債)を相殺する場合、確かに日銀の保有する国債の額だけ政府の債務は見かけ上減少することになる。しかし銀行券や当座預金といった日銀の負債も併せて負債に計上されることになるため、トータルとしてネット上の負債超過の状況は変化しない。大事なことは統合という会計処理によって見かけ上の政府債務が減少されることではなく、財政健全化に取組み、財政を持続可能な形にしていくことが重要と考えている。

(高井)副大臣も財務省に洗脳されてしまっているようで大変残念だ。政治家しか変えられない。財務官僚からは絶対変わらないので、副大臣には頑張ってほしい。

【資料①】2019年4月17日の財政制度審議会の説明資料「MMTに対する批判、コメント」と最近のコメント

https://is.gd/RZppu8

 

【資料②】統合政府論に関する資料リスト

https://is.gd/3naLAd