MMT・反緊縮政策を財務官僚に問う(その4)

4月23日の厚生労働委員会で、9日、14日、16日、21日に続いて、財務省主計局の宇波(うなみ)次長と5度目の質疑を行いました。

これまでの4回はいずれも詳細に質問通告を行ってきましたが、優秀な財務官僚が用意周到な「すれ違い答弁」を用意し議論がかみ合わないので、今回は詳細な質問通告はせず、財務省の本音を引き出すことを心がけました。

いくつか本音を聞き出すことができましたが、まだまだ不十分であり、引き続き議論を続けてまいります。

以下が議事録の要約版です。詳しく(正確に)知りたい方は動画をご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=f8rdc4C8U_k

 

財務省のMMTに対する評価

(高井)主計局次長といえば財務省のエースで事務次官コース。とりわけ宇波次長は菅首相の信頼も厚いと聞く。今日は質問通告していないことを聞くが本音を語ってほしい。2019年4月17日の財政制度等審議会に財務省が提出した4枚の資料はMMTに対する批判的コメントばかりだ。MMT賛成派の経済学者もたくさんおり、そのコメントを載せないのは不公平だ。なぜ財務省はMMTに対してこんなに冷たいのか。「全く無視で研究すらしていない」のか、それとも「研究した結果財務省にとって都合が悪いため敢えて議論しない」のか、どちらか。

(宇波)大変恐縮ながら政府委員として答弁するので、個人的見解は申し上げません。ご指摘の資料は経済学者や外国政府の責任者等の発言の中でMMTに対する評価の要点を抜粋してまとめたもの。MMTの最も問題だと考えているのは、現在の財政赤字の主たる要因である社会保障の給付と負担のアンバランス、これを物価上昇局面において急速に解決することは社会保障の急激な削減や増税を行わざるを得ないため、国民生活に非常に大きな悪影響を与えかねない点。

(高井)私が聞いているのは、財務省がMMTをどの程度研究しているのかという点。この4枚の資料はひどい。MMTを推奨しているコメントは1つも載っていない。MMTをどの程度研究した上でこの資料を作ったのか。

(宇波)MMTの様々な主張については、もちろん財務省の中でいろいろな文献を読んだりして検討しているが、先ほどの理由からMMTに基づく政策を採る考えはない。

 

 

インフレ率2%まで国債発行額を増やすべき

(高井)おそらく初めて「財務省内でMMTを研究している」という答弁があったと思う。頭のいい財務官僚がMMTの理論を理解できないはずがないので、やはり財務省にとって都合が悪いから議論すらしないのだと理解した。私の提案は「インフレ率2%になるまでは国債発行額を今よりも増やそう」というもので、インフレ率2%になった後に社会保障削減や増税は必要ない。れいわ新選組の山本太郎代表は参議院調査室の試算をもとに「毎月10万円の現金給付」を行ってもインフレにならないと提言。国民民主党の玉木代表は「こども国債」発行を提案している。私ならIT関連予算を2~3倍に増やす。インフレ率2%まで国債発行額を増やし、こうした政策を実行できない理由は何か。

(宇波)現在が均衡財政であれば理解できるが、既に財源の4割を公債金で賄っており、債務残高対GDP比は先進国最悪。社会保障の給付と負担のアンバランスを将来にわたって持続可能なものとする改革が必要。

(高井)債務残高対GDP比が3倍だと何が問題なのか。政府の負債は国民の資産であり「借金」ではない。ただ無限に国債を発行するとは言っていない。債務破綻するか否かの基準がインフレ率だ。インフレ率が一つの大きなメルクマールであることは認めてほしい。

(宇波)財政に対する信認を何か特定の客観的基準で評価するのは困難。例えば社会保障の持続可能性も一つの重要な要素。他にも債務の持続可能性、国債の償還可能性や国債の実質的価値が安定していることが重要。市場参加者は財政状況や経済力などの様々な指標で総合的に判断する。更にソブリンリスクプレミアムや金利も一つの指標。インフレ率は財政政策との関係で議論するのは難しい。国債を無限定で発行すれば、悪いインフレがいつ起こるか予測不能で制御も難しい。

 

財務省がMMTを否定する3つの理由とその反論

(高井)社会保障の受益と負担がアンバランスだと市場参加者は国債を買わなくなるのか。現に日本の国債は買われているし、暴落もしない。そのわかりやすい客観的な指標はインフレ率だ。この点はMMTを否定する主流派経済学者だって認めている。ただ「インフレはコントロールできないからMMTは採用できない」という経済学者は多い。だからあらかじめ法律で「国債発行増額はインフレ率2%まで」と制限しようと提案している。前回宇波次長は財務省がMMTを採用しない理由を3つあげた。1つ目は「自国通貨建て国債でも市場の信認を失えば金利が上昇し資金調達が困難になる」と。だから金利が上昇するまで、インフレになるまでと条件を付けている。2つ目は「通貨発行権のある中央銀行が紙幣を刷って国債を無限定に引き受けるわけにはいかない」と。私は無限定に引き受けろとは言ってない。インフレ率2%までと限定している。3つ目は「社会保障の受益と負担のアンバランスがある」と。これはこの問題を解決する法律を作ればいいだけの話。3つの理由はいずれも否定されたと思うがどうか。

(宇波)財政は社会保障のアンバランスと裏腹な関係であり、長期間にわたって持続可能なものにする必要がある。高井委員は「インフレになるまで」と言うが、政府としては、現在長いデフレの中で安定的に国債が消化されているが、インフレになったら全部違うという前提で財政や社会保障政策の運営を行う考えはない。

(高井)だから法律であらかじめ「インフレ率2%まで」と定めようと提案している。山本太郎さん提案の「国債発行で毎月10万円給付」のような政策は「インフレ率2%まで」と法律で定め、「2%になったら元に戻しましょう」と提案している。以上の提案を財務省は研究会等を設けて様々な立場の経済学者を入れて徹底的に議論してほしい。

(宇波)「今の財政状況に戻す」と言われるが、今既にアンバランスであり、現在に戻すことが望ましいとは考えていない。財政に関する議論や研究は財政制度等審議会で様々な有識者から議論してもらっている。