総務省接待問題の本質を見誤るな
予算委員会「総務省接待問題の集中審議」で質疑やってくれないか?
古川国対委員長に言われましたが、お断りました。それは私が総務省(旧郵政省)出身で多くの先輩・同期・後輩が調査対象となっていること、とりわけ最も疑惑の目を向けられている谷脇総務審議官の直属の部下であったことから、公正さを欠く質疑になってはいけないと思い辞退しました。
しかし、これまでの国会での議論を聞いていて、また一連の報道を見て、総務省で働いた経験のある政治家として「この問題に対する自分の考えを述べておかなければならない」と思いブログを書くことにしました。
まず大前提として、総務省が受けた一連の接待は、国家公務員倫理規程違反であり決して許されることではありません。
ただ、この問題を単なる「総務官僚の不祥事」で終わらせては問題の本質を見誤ります。
なぜ接待が行われたのか?とりわけNTTが2018年からなぜこれほど多くの接待を行ってきたのか?この解明が極めて重要です。
私は学生時代から情報通信分野に関心があり、卒業論文のテーマは「NTT分離分割論」でした。郵政省に入って最初の仕事はNTT料金認可で、総務省を辞める直前はNTT担当の課長補佐でした。私が総務省(郵政省)に在籍した13年間、総務省(郵政省)とNTTは常に闘っていました。その闘いの中心にいたのは谷脇総務審議官でした。私が入省した28年前、谷脇さんはまだ課長補佐でしたが、その頃から「将来の事務次官候補」と言われていました。谷脇さんを知る人であれば誰もが「あれほど優秀で仕事熱心な人はいない」と言います。谷脇さんほど情報通信分野の競争政策に強い思い入れを持ち、力を尽くした人はいないと思います。
菅首相の側近と言われますが、仕事ができるから重用されるのは当たり前で、自民党のみならず民主党政権の歴代総務大臣からの信任も厚い方でした。
その谷脇さんとNTT澤田社長が会食でどういう話をしたのかは知る由もありませんが、私の想像では、谷脇さんはいつも通り「競争政策の必要性」を話されたのではないかと思います。これはNTTが目論む「ドコモの完全子会社化」とは相反する考え方です。
私は昨年9月にNTTがドコモを完全子会社化すると聞いて腰を抜かすほど驚きました。谷脇さんが総務審議官(事務方No2)でありながら、なぜそんなことになったのか不思議でした。一方でやはり菅首相の意向には逆らえなかったのか…とも思いました。菅首相は携帯電話料金の値下げのためには手段を選ばず、情報通信分野の競争政策の歪みなど意に反さなかったのでしょう。しかし谷脇さんは違ったと思います。悩みに悩み抜いた末に従うしかなかったのだと思います。
あくまでも私の推測ですが、NTT澤田社長は最初に谷脇さんにドコモ完全子会社化を打診したと思います。しかし谷脇さんは数万円の接待で自説を曲げるような人ではありません。頑なな谷脇総務審議官に業を煮やし、上司である野田大臣、高市大臣、武田大臣、坂井副大臣、寺田副大臣らと会食を重ねたのではないでしょうか。
そもそも「ドコモの完全子会社化」などという大きな話は、一官僚がどうこうできる話ではありません。1985年の電電公社民営化以来、「郵政・NTT大戦争」と言われ、「NTT分離分割」は20年あまり議論を続けてきた問題であり、いくら谷脇総務審議官に力があっても簡単に覆せるものではありません。おそらく総務大臣ですら難しい。やはり総務大臣・副大臣を経験し、総務省や情報通信業界に厳然なる力を持つ菅首相しか決められなかったと思います。
その意味で、菅首相がNTT澤田社長と会食したのか?そこで何を話したのか?がこの問題を解明する鍵だと思います。
総務官僚に対する接待は決して許されることではありませんが、それ以上に罪が重いのが「政務3役」と言われる総務大臣、副大臣、政務官に対する接待です。
官僚トップの事務次官やNo2の総務審議官よりも権限を握っているのは、その上司である「政務3役」と言われる政治家です。特に近年、政治家が官僚の人事権を握ったことで、「政務3役」の力が強まっています。この「政務3役」が政治家であることを理由に責任を免れることがあってはなりません。
私は、NTT澤田社長は武田総務大臣だけでなく菅首相とも会食していると確信しています。その理由は、菅首相も武田総務大臣と同じく「疑惑を招くような会食はしていない」と答弁しているからです。
一連の総務省接待問題の本質は「NTTドコモ完全子会社化とその背景にある菅首相」です。決して「見せしめ」として官僚だけを処分して幕引きを図ることを許してはなりません。